能美市ふるさと交流センター
ウェルネスハウス さらい

アートや文化、伝統を感じる、宿泊施設。

当社で設計した能美市にある「ふるさと交流研修センター さらい」の全面リニューアルに合わせ行った改修設計。生まれ変わった「ウェルネスハウス さらい」の最大の特徴は、「九谷ステイ」と呼ばれる、能美市ゆかりの九谷焼作家8名がプロデュースした客室である。各作家の手で制作された作品を展覧するだけでなく、内装を含めた空間全体でアートや文化、伝統を感じられる宿泊施設を目指した。能美市の伝統工芸である九谷焼は、長きにわたる歴史を礎に新たな作風や表現方法が生まれ、今日においても進化し続けている。本プロジェクトでは、そうした九谷焼の若手作家と協働し、彼ら・彼女らの感性を空間の隅々まで浸潤させることで、工芸と建築との融合を図った。客室や施設そのものを作品と見立てるアートホテルが全国的に注目される中で、「陶芸」に焦点を当てた取り組みは国内初の試みである。また、工事完了後も各作家が継続的に作品を展示・発信する場として活用していけるように、持続的な取り組みを進めることで、一度のみならず何度も泊まりたくなる施設を目指した。

能美市に残る「白山曼荼羅図」をインスピレーションに、須恵器、古九谷、再興九谷、明治九谷を引用し描いた「空想器獣山水図」。
エントランス
「空想赤絵器鳥図」。能美で明治期に栄えた絢爛な赤絵や金襴手の器をモチーフに、独自の意匠で描きおこした。
客室
客室を特徴付ける切妻屋根の上部から降り注ぐ光と呼応するように、早助千晴さんの細密描写のパターンをクロスで展開。
客室
能美市の原風景とも呼べる古墳群を赤絵細描で表現。太陽が昇るように大鉢のレリーフを際立たせている。

(Architectural & Craft Process)

建築計画・
工芸の取り組み

今日における九谷焼、
作家の個性を空間に拡張する。

改修前の施設にも九谷焼が数多く展示されていたが、竣工より約10年が経過し、運営形態のみならず利用者のニーズ、施設を取り巻く周辺環境が様変わりするなかで、その時代に沿った文化資源の活用方法が希求される。そのため、九谷焼の現在性やそこに内在する創造性、また作家が持つ個性を見極めて、それらを建築空間へと波及させていく設計計画を行った。具体的には、画一的になりがちな客室空間において、複数名の作家が工芸展開を含む内装プロデュースを行うことで各客室の差別化を図り、九谷焼の新たな発信拠点になることを目指した。キュレーションは当社系列の文化事業会社「ノエチカ」に在籍する、元東京都現代美術館のキュレーターが担当した。

建築

作家と設計者が
チャレンジ精神を共有する。

壁面における絵柄の展開の多くは、インクジェット印刷されたクロスによるものだ。全体計画をもとに出力時の解像度や原画の倍率を確認するためにテストプリントを繰り返し、制作に先立つ事前検証を入念に行った。また、スキャンデータのトリミングや色調補正においても、実際の九谷焼を忠実に再現するために細部に至るまで調整を行なっている。設計者が時に専門家を交えながら、計画から制作・設置に至るまで作家と伴走することで、新しい九谷焼の表現に挑戦することができた。

工芸

(Collaboration Artist)

コラボアーティスト

白山の龍

井上 雅子
白山と日本海を臨む能美の空に悠然と現れた龍の姿。

和田山丘陵

上出 惠悟
SARAIに隣接する和田山古墳の丘陵と、出土した副葬を麻紙に墨で直接描いた。

里やまの狐

架谷 庸子
能美市に点在する古墳群を、赤絵細描の技法でやま小紋として展開した。

五彩アニマルʼz

山近 泰
九谷五彩の青、黄、紺青、紫、赤を使いデフォルメした動物たちを描いた。

静爽の奏

山岸 青矢
白磁とアクリルからなる立体造形にライトを組み込みモダンにまとめた空間作品。

光と線と影

中田 雅巳
自然の光、人工的な光、それによって変化する線と影が融合した空間。 

月齢

早助 千晴
青を基調とした細描画を壁面に展開、月の満ち欠けを表現した。

眠りの島

牟田 陽日
眠りにつく前「独りの時間」を、波に囲まれた孤島の情景に表した。

ARTIST INTERVIEW

Naoki Sakai
能美市に工房を構え、色絵の技法を主軸に日常的な食器から茶器などの美術工芸品まで多岐に渡り制作。

エントランスの作品群「空想器獣山水図」を手掛けた
九谷焼作家 牟田陽日さんに聞く、工芸建築と九谷焼の可能性。

工芸建築に興味を持ったきっかけは。
金沢21世紀美術館での「工芸建築展」は、新たな工芸の可能性が羅列されているようでとても魅力的でした。私は元々、ファインアートの世界で、空間の中における作品づくりに取り組んでいたのですが、秋元雄史さんが関わっていたベネッセアートサイト直島がひとつの原体験となって「空間自体が作品にどれだけの影響を及ぼすのか」ということに興味を持っています。今回いただいたお話も自然な流れで挑戦したいと思いました。
どのような視点を意識されましたか。
小さなお子さまからご年配の方まで老若男女が利用される市設民営の施設ということで“公共性”は意識しました。エントランスは、訪れた方をお迎えするのに相応しい、華やかで明るくて楽しい雰囲気に仕上げたつもりです。また、撮影なども楽しんでもらえるよう、どの壁面も人が入り混みやすいような余白を意識しています。今回は基本的に「人が触っても大丈夫」な素材と位置を考えて制作しているので、実際に触れてみてほしいです。
プロジェクトから得た、新たな気づきはありますか。
今回こうして、九谷焼の建築的展開に実際にチャレンジさせていただいたことで、いろんな可能性が具体的に見えてきました。例えば展示の照度やライティング、フォルムであったりと、より建築に踏み込んだ“研いだ表現”というものにも挑戦してみたいという気持ちが湧いてきて。九谷焼としてできそうなことのイメージが次々と湧き出ている状態です。機会をいただけるなら、また是非参加できたらと思っています。