「今までにないもの」に、共に挑めるパートナー
/vol.11「けやきクリニック 整形外科」院長・石川峻氏インタビュー

浦建築研究所のミッションステートメント「共に、築く」。こちらのコラムでは、私たちとプロジェクトを共にしてくださっている方々へのインタビューもご紹介しています。今回は浦建築研究所が設計を担当し、2022年にオープンした「けやきクリニック 整形外科」院長・石川峻さんへのインタビューです。同医院では、現在(2024年7月)リハビリテーション棟の増築プロジェクトも弊社にご依頼いただき進行中。浦建築研究所との出会いから竣工後の感想、そして今後の展望まで改めてお話をうかがってきました。(設計を担当した巻建築士のインタビューはこちら

院長の石川峻さん。県内外の大学病院や総合病院で整形外科医を歴任し独立。金沢大学附属病院勤務時には整形外科医師として世界最高難度の手術にも同行

戦略的に臨んだ結果の大反響

──「けやきクリニック整形外科」をオープンされて2年。予約をとるのも大変なほど連日多くの方が来院されていますよね。

石川:ありがとうございます。浦建築研究所さんのお力も借りながら、僕らなりに現代の課題に戦略的に取り組んできた結果、患者様のニーズにピッタリと合致したのだと感じています。

ありがたい一方で、予約が取れず待機いただいている患者さんが増えてきたという状況もあります。どうしたらお問い合わせいただいた全ての方を救えるか。今のままでは、どうしてもスペースもスタッフの数も足りないので、「増築」へと踏み切りました。

── 増築プロジェクトでも再び浦建築研究所にお声がけいただいた決め手があれば教えてください。

石川:まずは前回担当してくれた、設計士の巻さんの仕事ぶりに信頼感があるということ。彼の仕事のやり方はスマートでスピード感もあってすごくやりやすかった。それに「増築」の可能性は元々ある程度織り込んだ上で巻さんが設計してくれていたので、ある意味ではお願いするのは自然な流れというか。ただ、こんなに早く実現することになるとは思っていなかったですね(笑)。

広々とした駐車場とクリニックとの関係は、増築の可能性も視野に入れて設計されたもの

“同じ土俵”で戦える。直感したプレゼンテーション

──そもそも最初に浦建築研究所にご依頼いただいた経緯からうかがえますか?

石川:「自分のクリニックをつくろう」と思った時、まず県内の大手設計事務所数社に同時に声をかけたんです。それぞれ設計士さんから話を聞いたり、プレゼンテーションもしてもらいました。その中で、浦建築研究所の巻さんのプレゼンが一番ロジックがしっかりしていて、彼なら「同じ土俵で戦える」と感じたんです。
例えば、この土地の写真や地形の変遷を100年前に遡っていたり、逆に数年先に計画されているショッピングモールを踏まえた交通量の変化など、過去から未来も踏まえた落とし込み方だった。とにかく徹底的に調べた上で「建築」というものが組み立てられていたんですね。
僕ら医者もエビデンスを積み上げて判断していく「理論」に基づいた仕事です。だからこそ通ずるものがあり心打たれたというか、ちょっと感動しちゃいましたね。

増築計画も担当する、担当設計士の巻(左)と

既成概念に捉われない「新しい人たち」と共に

石川:あと最初に浦社長にお会いした時に「若い人たちと仕事をさせて欲しい」って、僕からお願いしていたんですよ。「ベテラン“じゃない方”で」って(笑)。そしたら次に一緒にやってきたのが巻さんだった。

──「ベテラン“じゃない方”」って、ユニークなオーダーですね。あえて「若い人たち」をリクエストされた意図とは?

石川:「今までのクリニックとは違うものをつくりたい」と、僕は思っていたので。もちろん経験値豊かで優秀な建築士さんも沢山いらっしゃると思うけれど、既成概念に捉われない「自由で新しいアイディアを持った人たち」と仕事がしたいなと。何よりそっちの方が絶対面白くなるだろうという予感がありました。
今の時代において「SNSとかは興味ないです」みたいな設計士さんとは、一緒に組む気にはなれないですよね。もう建物だけじゃなく「全体の戦略」として建築を考えていかないといけないと思うので。
そういう意味では、浦建築研究所は「若手」から「重鎮」まで、多様な人材が揃っているのが良いですよね。組織設計事務所としての規模感というか、ベテランが築いてきた安定感というのも、間違いなく決め手の一つになっていたので。

「新しい手法」取り入れ続ける、会社としての姿勢

石川:そして巻さん個人に限らず、BIMをはじめとした「新しい手法」というものを、「会社として」積極的に取り入れているところも、浦建築研究所は好印象でした。
他の設計事務所さんでプレゼンテーションに「模型」を持ってこられた時は、ちょっと驚いてしまって。業界問わず日進月歩で技術が進化している現代にはそぐわないのかなと。「新しい時代にあったものを持ってきている」、そういう印象が浦建築さんの方が圧倒的に強かったですね。

── 実際にBIMモデルを使用した設計提案を受けてみていかがでしたか?

石川:やはりビジュアルで見られるので、非常にわかりやすかったです。僕らは建築には素人なので、図面を見せられてもイメージできないけれど、これなら一目瞭然だから意見もできるし、共通認識の上で議論ができる。
非常に精度の高い完成予想図も早い段階から出すことができるので先行して告知もできますし、何より「これができるんだ」というワクワク感を患者さんに持っていただくことができますよね。「できるまではわからない」という時代から変わってきているのを感じました。

BIMモデルから。窓から見える風景の確認なども事前に検証できる

「共に、築く」は次なるスタンダードへ

石川:BIMモデルはVRのように動画として見れるので、打ち合わせの度に最新のデータをもらって自宅で見返して考えることもできるし、そして何より「皆と共有できる」というのが大きかったですね。

うちの最大の強みとして「スタッフと共につくっているクリニック」だということがあります。通常なら「建物が完成してから、スタッフを募集する」という順番だと思うのですが、僕らはまず「スタッフありき」なんです。設計段階からリハビリ担当スタッフに入ってもらって、彼らの意見を仰ぎながら建物をつくっています。クリニックというと「医者」が評価の対象になりがちですが「スタッフ陣のレベルの高さ」も僕らの自慢なんです。

──「共に築く」は、浦建築のステートメントでもあるので共鳴するところがあるように感じます。

石川:この「共有しながら判断する」「一人に責任を集中させない」という考え方は、実は今医療の世界でもスタンダードになってきているんです。
データを皆で共有しながら、タイムリーに判断を仰ぐというやり方。なのでクリニックも巻さんにもらったBIMデータを都度彼らと共有して「どうしたらより機能的になるか」、ディスカッションを繰り返しながら一緒につくってきました。

リハビリを担当する理学療法士のスタッフと共に

主体は「患者さん」と「スタッフ」側にある

── BIMによる精巧なモデルで事前に確認しながら建物をつくってこられて、実際に建築ができてみて、反応などはいかがですか?

石川:すごく好評ですよ。患者さんからも「落ち着く」とか「親しみやすい」というお声をいただいています。そもそも僕らのテーマが「クリニックの敷居を下げよう」だったので、設計面でも見事に目的が達成されたというか。

巻さんにも「『カッコ良さ』とかではなく、いかに患者さんに『入ってみよう』という感覚を持ってもらえるか」というところを大切にして欲しいとお願いしていました。僕らのクリニックは、お子さんからアクティブシニアと呼ばれる高齢の方まで幅広い世代をターゲットにしています。そうなると敷居が高いホテルライクな空間は、気後れしてしまって逆効果にもなってしまう。

ここは「患者さんやスタッフが主体」の場所です。「自分の城をつくる」のとは考え方が根本的に異なります。なるべく無機質な要素は排除して、木の温かみやナチュラルな空気感にすることを意識していました。この「共に作る」という感覚を、浦建築さんと互いに共有できていたのも良かったですね。

リハビリテーションルーム
エントランス前

「物事を、自分で組み立ててみたかった」

── お話をうかがっていると、いわゆる「お医者様」だけではない「事業者」としての戦略的な目線も感じます。長年整形外科医として勤務医をされていた先生が、そもそも独立しようと思ったきっかけは?

石川:まず一つは、「手術の限界」を感じたということ。手術も重要な治療手段としての役割を果たしていますが、「手術を受けたくて受ける人」というのはいませんよね。手術は最終手段であって、その手前の段階で適切な治療やリハビリテーションを行うことで患者さんを救うことができるのではないか、現場で強く感じるようになったことがきっかけです。

そしてもう一つは、自分でビジネスをしてみたかった。「ビジネス」というと「営利目的」だとか「冷たい印象」に聞こえるかもしれないけれど、そうではなく「自分で一から物事を組み立ててみたかった」というか。自分で考えて仕掛けたことが、世の中にどう反映されて、どういう反響が生まれるのか。そのドキドキを、肌で感じたかったんですよね。これは勤務医でいる限りは体験できないことです。

ここからが、スタート

──そういう意味では先生の「自分で考えて仕掛けたこと」はかなりの“手応え”があったというか、実際に多くの患者さんに喜ばれていますね。


石川:いえ、ここからですよ。僕はまだ何も成し遂げていませんし、僕にとっては「開業」は「ゴール」ではなく「スタート」でしかないんです。

── それでは先生の目指す「ゴール」の姿とは。

石川:一つは「脱・医者」化を目指しています。「医療」って未だにどこか特別視されがちというか。例えば「待ち時間が長くて当たり前」という考えが当たり前のように定着していたり、どこか「医者」と「患者さん」の間に上下関係のようなものがあるように感じます。
でも僕は「医者は医療というサービスを提供している者」だと認識していて。スタッフにも「クリニックは接客業だ」と常々伝えているし、僕自身医者だからと電子カルテとにらめっこしてないで、患者さんの顔を見て、話を聞いて、不調がある部分に触れようというスタンスです。この「医者」という従来のカテゴリーを、どんどん取っ払っていきたいんですよね。

レントゲン写真なども「撮影OK」の案内
公園のように立ち寄れる空間

 

石川:「けやきクリニック」も、もちろん「医療」を中心の礎にしながらも、医療だけに捉われない領域まで展開をしていきたいと思っています。例えば、「けやきカフェ」とか「けやきクリーニング」みたいなことだって、あり得るわけです。皆さんに「けやき、けやき」と親しんでいただけることが何より大事だと思っていて。ここにおける「けやき」って「親しみ」とか「安心感」という意味だと思うんですよね。
オリジナルキャラクターや、テーマソングも作りたいねって、今まさに巻さんに相談してるくらい(笑)。展開の可能性は無限にあるので、まだまだ一緒に、巻さんとは色々つくっていきたいですね。


(取材:2024年6月)